「SESは給料が低い」とよく言われます。ただこの話は、たいてい体感や又聞きで語られていて、どれくらい低いのかが数字で示されることは少ない。
そこで厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」を見てみました。すると、予想とは逆の数字が出てきます。
情報通信業は、全16産業中4位
産業別の賃金を見ると、情報通信業はこうなっています。
| 区分 | 賃金(月額) | 全16産業中の順位 | 平均年齢 |
|---|---|---|---|
| 男女計 | 39万1,000円 | 4位 | 40.8歳 |
| 男性 | 41万2,300円 | 6位 | 42.0歳 |
| 女性 | 33万3,800円 | 2位 | 37.6歳 |
情報通信業は、産業全体で見れば賃金の高いほうから4番目です。 SES企業もこの情報通信業に分類されます。
実感と合わないかもしれません。私自身、24年この業界にいて「高給の業界にいる」と感じたことはほとんどありませんでした。
では、どこで差がついているのか。
企業規模で、月6.5万円違う
同じ調査を企業規模別に見ると、景色が変わります。
| 企業規模 | 賃金(月額) | 平均年齢 |
|---|---|---|
| 大企業(1,000人以上) | 36万4,500円 | 42.8歳 |
| 中企業(100〜999人) | 32万3,100円 | 44.0歳 |
| 小企業(10〜99人) | 29万9,300円 | 45.7歳 |
大企業と小企業の差は、月6万5,200円です。 所定内給与だけで年78万円になります。
注目すべきは年齢です。小企業のほうが平均年齢は3歳近く上(45.7歳 対 42.8歳)。年齢が高いほうが賃金は低い。年功で説明できる差ではありません。
そして、SES企業の多くは中小規模に属します。業界としては4位の高さなのに、所属する企業の規模でここまで削られる。問題は業界ではなく、商流のどこにいるかです。
数字の読み方について、2つ補足します
このサイトはデータを根拠にする方針なので、数字の限界も正直に書きます。
1. ここでいう「賃金」は年収ではありません
賃金構造基本統計調査の「賃金」は、調査年6月分の所定内給与額です。残業代、深夜勤務手当、休日出勤手当は含まれません。賞与も別項目で、ここには入っていません。
ですから「月36万円 × 12 = 年437万円」という単純計算は正確ではありません。実際には賞与が乗ります。本記事では月額のまま比較しています。
2.「システムエンジニア」という職種区分は、この統計には存在しません
令和2年の調査から職種分類が変わり、現在は次の区分になっています。
- システムコンサルタント・設計者
- ソフトウェア作成者
- その他の情報処理・通信技術者
一般に言う「SE」は主に「ソフトウェア作成者」に含まれます。「システムエンジニアの平均年収は◯◯万円」と書かれた記事を見かけたら、どの区分の数字なのかを確認してください。 出典をたどれない数字が、かなりの頻度で流通しています。
なぜ企業規模で差がつくのか
ここからは、賃金統計ではなく取引構造の話になります。
公正取引委員会が2022年6月に公表した「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」は、資本金3億円以下のソフトウェア業2万1,000社を対象にした調査です。回答は4,321〜4,577社(設問により変動)。
結果の一部を挙げます。
| 経験した取引上の問題 | 割合 |
|---|---|
| 買いたたき | 15.7% |
| 不当な給付内容の変更 | 14.2% |
| 下請代金の減額 | 13.5% |
そして、多重下請けを直接示す数字がこれです。
「中抜き事業者の存在を感じたことがある」:全体で25.9%、最終下請けの立場では33.5%
出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(令和4年6月29日)
4社に1社、最終下請けに限れば3社に1社が、実質的な作業をしていない事業者が商流に入っていると感じている。
発注元が払った金額と、末端の会社が受け取る金額には差が生まれます。階層が1つ増えるごとに削られていく。エンジニア個人の給与は、その残りから決まります。
情報通信業が4位の賃金水準を持ちながら、中小企業では月30万円を切る。 この落差を説明するのが、この取引構造です。
自分の位置を確認する3つの基準
基準1:自社の規模を確認する
従業員1,000人以上か、100〜999人か、99人以下か。これだけで統計上の期待値が月6.5万円変わります。スキルの問題ではありません。
基準2:現場単価に対する取り分を見る
自分が入っている現場の月額単価がわかるなら、月給 ÷ 単価 を計算してみてください。手取り比率が6割を下回っているなら、間に入っている会社が多いか、自社のマージンが厚いかのどちらかです。
単価がわからない場合、それ自体が確認すべきサインです。
基準3:3年前の自分と比べる
同じ現場に3年いて給与が横ばいなら、その現場にいる限りは変わらないと考えたほうがいい。SESの給与改定は現場の入れ替えのタイミングで起きることが多く、動かなければ動きません。
「上がらない」のは能力ではなく構造の問題
年収が上がらないとき、多くの人はまず自分のスキル不足を疑います。私もそうでした。
ただ、ここまでのデータが示しているのは別のことです。業界としての賃金水準は高い。そして企業規模で、年齢が高いほうが低くなるという逆転が起きている。 これは個人の努力の外側にある問題です。
同じ努力をするなら、構造の内側で頑張るより、構造を変えるほうが効率がいい。
動く前に確認すること
とはいえ、すぐ辞めるのが正解というわけではありません。次の3つが揃っているなら、転職で条件が上がる可能性は高くなります。
- 担当した業務を具体的に説明できる — 「〇〇システムの保守」ではなく、使った技術、規模、自分の判断が言えるか
- 現場が変わっても再現できるスキルがある — その現場特有の運用手順ではなく、言語・フレームワーク・設計の経験
- 業務外での学習の跡がある — 自社開発企業ほどここを見ます
逆に、常駐先でテスト工程しか担当していない、コードを書いていない期間が長い、という状態であれば、転職活動と並行して手を動かす時間を作るほうが先です。
まとめ
- 情報通信業の賃金は月39万1,000円で、全16産業中4位
- 企業規模別では大企業36万4,500円、小企業29万9,300円で月6.5万円の差
- 小企業のほうが平均年齢は約3歳高い。 年功では説明できない
- この統計の「賃金」は6月分の所定内給与額。年収ではなく、残業代も賞与も含まない
- 「システムエンジニア」は統計上の職種区分として存在しない
- 公取委の調査では、25.9%が中抜き事業者の存在を感じている(最終下請けでは33.5%)
業界が低いのではなく、立っている場所が低い。だとすれば、動かす対象は自分のスキルではなく、自分の立ち位置です。
出典
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」企業規模別(2026年10月22日取得)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/dl/04.pdf - 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」産業別(2026年10月22日取得)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/dl/05.pdf - 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 主な用語の定義」(2026年10月22日取得)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/yougo.html - 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」(令和4年6月29日)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_software.html